企業側からの改正特許法への不満
社員間の公平さの維持と「5%ルール」に疑問符---職務発明制度の問題点を専門家が斬る(日経BP,Tech-ON産業動向オブザーバ)の記事であるが、「専門家が斬る」とされているけれども、むしろ企業側からの視点ばかりであると言える。
(1)社員間の不公平に関して、マイクロソフト法務・政策企画統括本部極東地域担当のダイアン・ダーカンジェロ氏が「相当対価を規定した法律」は日本だけとしているが、実際にはドイツにも従業員発明に補償金請求権を認めるなどの権利があり、その他の国でもアメリカ以外では法律でなんらかの職務発明相当の規定があり、米企業の立場からかもしれないが全くグローバルな観点とは言えない。その意味では日米比較の観点から、というシンポジウムではあるが、誤解を招くものである。知財立国を目指す立場からすれば、研究者は「相当の対価」が法的に保証されいている国で働きたいと思うのが自然とも言えるはずで、企業間の競争において、そういう国に研究所を設けない企業は研究者の誘致に不利になるとの見方もできる。特許法改正の際にも他国の知財立法は比較検討の対象とされたのであり、知財立国を目指す国の国益を考えれば、研究者にインセンティブを与えるのは自然なことと考える。
さらにかつて富士通で働いていたという日比谷パーク法律事務所の上山浩氏は 「偶然,発明に携われる部門に配属された社員は,高い報酬を手にする可能性があるが,それ以外の部門に配属された社員にはその可能性はない」としているとのことだが、 これは社内の異動政策の問題であって、それによって生じる従業員間の不公平感は会社自身の説明で納得してもらうのが筋ではないだろうか。「一部の社員だけにインセンティブを与えて」ともあるが、 そもそも会社自体が社員に平等な報酬を約束しているわけではない。 大して働いていないように見える会社役員が、多額の役員報酬をもらっているという不平はずっと存在する。 改正特許法が要求する合理的な手続きとは、 インセンティブとしての職務発明の付与基準を明確にすることであり、これは企業に従業員に対する説明責任が存在していることを示している。 また、日本でもいわゆるビジネスモデル特許も可能となってきており、特許はかならずしも一部の研究者だけのものとも言えないわけだが、このあたりの意識がまだ乏しいのかな、とも思われる。
(2)5%ルールに関しては、改正特許法では合理的な手続きを定めるのみで、その際の相当対価に関するルールはまだ存在していない。企業が相当対価を定める方法が不合理だった場合に、はじめて裁判所が貢献度を考えることになっており、従来よりも裁判所が貢献度を考える事例は減ることが期待されている。 従って、「発明へのインセンティブを社員にどう与えるかは,各企業の重要な戦略の一つ」 という意見には賛成だし改正特許法が意図するところでもあるが、 「強行法規として画一的に決めるのは問題である」というのは、 何か誤解があるのではないかと思う。
改正特許法が意図するところは、企業と発明従業員間の紛争を減らして双方が納得の上で働ける環境を構築することであり、企業に画一的な決め方などは要求していない。 訴訟リスクを0にしようというあり得ない発想のほうがよほど危険である。 いずれにせよ、改正特許法の評価はまだこれからであり、 裁判事例もないうちから再改正を望むのは拙速との批判を免れられないだろう。

Recent Comments